ジャパンバードフェスティバルプレイベント・シンポジウム

野鳥とどうつきあうか
−高病原性鳥インフルエンザに関連して



4月24日,千葉県我孫子市の中央学院大学で,
「野鳥と鳥インフルエンザ」と題する公開シンポジウムが開催された。

このシンポジウムは,
「ジャパンバードフェスティバル」のプレイベントとして行われたもので,
「野鳥との共生」を掲げるジャパンバードフェスティバルの理念に沿って,
この問題に関する科学的で正確な情報を提供し,
野鳥との安全なつきあい方を広める目的で同フェスティバル実行委員会が企画,
中央学院大学の協力で実現した。


野鳥バッシングの発生

 今年冬に西日本を中心に散発的な発生が見られた鳥インフルエンザは,京都府の養鶏場で飼われていたニワトリの大量死の発生によって大きな注目を集めた。特に,野鳥であるハシブトガラスの感染死が確認され広く報道されると,野鳥を介して感染が拡大するのではないかとの不安が広がったことは記憶に新しい。

 シンポジウムの冒頭,財団法人山階鳥類研究所の山岸哲所長は,基調講演「野鳥と鳥インフルエンザ」のなかで,この問題についての関心が高まるにつれ,同研究所や日本野鳥の会には,「野鳥が悪者にされていてかわいそう。どうにかしてあげて」という野鳥擁護派からの哀願のほか,それをはるかに上回る,「カラスやスズメやハトが家の近くにいるが大丈夫か」「ツバメが毎年軒先に巣を作るが,来ないようにする方法を教えてほしい」「えさ台を置くのはやめないといけないだろうか」など,信じがたい相談が寄せられるようになったことを紹介。こうした「野鳥バッシング」の動きは「大昔からつかず離れず,うまく保ってきた野鳥との関係を,人間の側が一方的に断とうとしている憂慮すべき事態」だと指摘。鳥インフルエンザはむやみに恐ろしがる対象ではないことを平明に解説する一方,感染症全般の蔓延を防止するために,これまでのタテ割り行政的な情報収集を排し,各分野の知見を統合した調査が不可欠であることを強調した。


ありふれたウイルス

 これに続き,渡り鳥の専門家である同研究所標識研究室の尾崎清明室長,鳥インフルエンザウイルスの専門家で人間への感染の研究も行っている独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 動物衛生研究所の山口成夫部長,人間の感染症の専門家である共立薬科大学客員教授・国立感染症研究所感染情報センター客員研究員の中村明子教授による三つの講演,「渡り鳥が鳥インフルエンザウイルスを運ぶ可能性」「高病原性鳥インフルエンザウイルスはどこから来たか」「人間への感染の可能性」で,より詳細な事実が紹介された。

 鳥インフルエンザウイルスはA型インフルエンザウイルスとよばれるタイプで,主に水鳥の腸管内にふつうに存在するごくありふれたものであることがわかっている。水鳥とは病気を引き起こすことなくいわば「共存」しているものなので,水鳥が身近にいる人間の周辺にも当然太古から存在し,特に問題を引き起こすものではなく,感染力も低い。しかし,ごくまれにニワトリに感染することがある。それは,ウイルスに出会う機会のまれなニワトリにとっては,青天の霹靂だ。病気の症状を現してしまう。今回問題になった「高病原性鳥インフルエンザウイルス」は,そのような,珍鳥ならぬ珍ウイルスなのだ。したがって,主な感染相手はニワトリ。山口部長の講演で触れられていたが,「鳥インフルエンザ」というより,「鶏インフルエンザ」と書くほうが正確だろう(とすれば,野鳥バッシングの原因はマスコミにもあるのかも。責任重大……)。今回の騒ぎの元凶である高病原性鳥インフルエンザウイルスがどこからやってきて,どのルートでニワトリに感染したかは明らかになっていないが,ルートが不鮮明なのは,あまり感染しないので,感染が点々としか現れないためとも考えられそうだ。


「百戦危うからず」

 ウイルスは,感染した相手の体内の細胞に入り込み,それを利用して増殖する。したがって,もしウイルスと接触したとしても,細胞に入り込まれなければ感染とはならない。水鳥は鳥インフルエンザウイルスをふつうにもっているので,多くの水鳥が集まる湖沼などの水中には,ウイルスが混ざっている可能性が高い。ところが,そうした環境にすんでいる陸の鳥や水鳥を餌にしている猛禽類は多いのに,かれらはほとんど,ウイルスを保有していない。同じ鳥どうしの間でさえ,感染できる相手は限られているのだ。まして人間なら,なおさら感染しにくい。

 しかし,あまりに大量のウイルスに出くわした場合,からだの中のどこかに入り込まれる可能性は高くなる。今回,感染しにくいはずのカラスが感染していたのは,ニワトリの糞の捨て場で餌を採って,大量のウイルスに触れたからと考えられる。高病原性鳥インフルエンザウイルスはニワトリのウイルスだから,多数のニワトリと密接につきあうような環境なら,大量のウイルスに出会う可能性は高くなるというわけだ。

 しかし,問題の養鶏場の職員に発症者はいない。渡り鳥を捕獲して標識する調査を行っている尾崎室長も,「日常的に野鳥に触れる仕事をしている自分にとって人間への感染には危機感があるが,こうした調査をしている研究者の感染例はない」と述べた。

 それではなぜ,東南アジアでは死者が出たのだろう。中村教授はこの点について,生活様式のちがいを指摘した。
 養鶏場の職員は大量のニワトリを扱うが,寝食を共にするような関係ではない。ところが東南アジアの農村などには,家の中にニワトリが走り込んでくるような環境がふつうにある。感染した鳥の排泄物が常に身近にあるような人がたくさんいれば,感染者が現れる確率は当然上がる。

 こうした事実から,感染防止の知恵が導ける。まさに中村教授が講演の冒頭で引いたことば通り「敵を知れば百戦危うからず」だ。


バーダーのための感染対策

 それでは,「高病原性鳥インフルエンザウイルス」時代にバーダーが知っておきたいことをまとめてみよう。引っ張った割には,実は当たり前のことばかりだが,要はふつうの生活をしていれば感染は防げるということだ。

●高病原性といっても,めったに人に感染しない(むやみに怖がって,鳥とのおつきあいを絶つのはあほらしい)

巣を落とすなんて考えないこと(人家近くに営巣するスズメやツバメなどは,ウイルスをもつ可能性はほとんどない)

●石けんで手を洗おう(ウイルスは簡単に無力化する)

●外から帰ったらうがい(肺の奥まで吸い込まなければ,ウイルスが増殖できる条件はそろわない)

●それでも気になる人は,医療機関で検査を(十数分でA型インフルエンザウイルスに感染しているかどうかを調べられる診断キットがある。「バードウォッチャーなので(鶏)インフルエンザに感染してないか心配なんですけど」と話して頼んでみよう)

●アヤしいと思ったら医療機関へ!(まかり間違って感染しても,A型ウイルスには特効薬がある。発熱から48時間以内に飲めば必ず治る)

●そして,野鳥たちのために「鳥インフルエンザ」ではなく「鶏インフルエンザ」の表記を普及させよう!

【注意】病気などで抵抗力の落ちた方,小さいお子さんなどは,鳥インフルエンザウイルスに限らず,病原体一般に対する抵抗性が低くなっている。体調管理もお忘れなく。